2025年3月8日土曜日

ウクライナ戦争の真実

 北野幸伯(よしのり)氏の、【裏RPE】【上級者編】3/8日から

転載させて頂きました。

北野さんは、ソビエトの崩壊に遭遇し、29年間ロシアで生活し、

ウクライナ人を父に持つ女性と結婚し、

2018年に、ロシアが危険になったので、帰国した。

最もロシア通の日本人国際学者、ジャーナリストだと思います。

やはり、ロシアの侵略戦争です。

北野氏の詳細は、下記URLからどうぞ。

https://rpejournal.com/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

読者の宮川さまから、こんなメールをいただきました。

<北野先生

 宮川と申します。

 いつも貴重な情報と解説をありがとうございます。

さて、プーチンがウクライナに攻め入ることになった背景・理由を、2/28の虎ノ門ニュースにて、あの伊藤貫先生が解説されていました。
伊藤 貫(いとう かん、1953年〈昭和28年〉- )は、日本の評論家、国際政治アナリスト、米国金融アナリスト、政治思想家。アメリカ・ワシントンD.C.在住。

ご覧になったでしょうか。

 【首脳会談で激怒】トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領への態度を変えたことについて伊藤貫さんと武田邦彦さんが話してくれました(虎ノ門ニュース切り抜き)

https://www.youtube.com/watch?v=LRNjGKCX82A

根本的な原因として、レーニン、トロツキー、スターリンが勝手に国境線を引いてロシア人とウクライナ人を一緒にしてしまったことがある。

 そして2015年にミンスク協定を結んだが、これはプーチンを騙すもので、NATOの軍隊としてロシアと戦争できるようにウクライナに兵器を送り訓練を行い、2019年にはウクライナ軍によって東ウクライナ在住ロシア系住民を16千人も大虐殺を行った。

 それによりプーチンはこのままだとウクライナはNATOに入るし、1200万人いるロシア系住民を見殺しにはできないので、ノボロシアを取り戻す必要がある、としてウクライナに攻め入ることになった、とのことです(宮川要約)。

 そしてそれは日本も欧米も報道していないということなので、情報ピラミッドで整理すべき問題かと思います。

当時のBBCの報道では、
【解説】 ロシア軍はなぜウクライナ東部を包囲しようとしているのかhttps://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-61006821

(引用)ウクライナが東部で集団虐殺を行ったと、プーチン氏は根拠のない非難を繰り返している。(ここまで)

伊藤先生の説を否定するようなことが書かれていました。

 どちらが正しいのか、私には分かりません。北野先生はどのようにお考えになりますか?

 ご意見を拝聴したく、メールいたしました。
 よろしくお願いいたします。>

ーー

お答えします。

 まず大前提として、「真実は人の数だけある」(久能整)ことを意識しましょう。
私たち日本から見る事情と、ロシア側から見る事情は全然異なるのです。それを私たちは、「どっちが正しいのですか?」と問いますが、これは一概にはいえません。

 たとえばNATO拡大問題。
ウクライナから見れば、「ロシアが怖いからNATOに入りたい」という真実があります。一方、ロシアから見れば、「32ヶ国の反ロシア軍事同盟があり、さらに拡大をつづけている。止めなければ!」という真実があります。

 どちらも「それぞれの真実」でしょう。
ところで、『ミステリというなかれ』の久能整君は、「真実は人の数だけある」につづいて、「事実は一つだけ」といっています。

この場合、「NATOが拡大している」のは、誰にも否定できない事実です。 

こんなことを念頭におきながら、宮川さんの質問に答えていきましょう。


 
1、根本的な原因として、レーニン、トロツキー、スターリンが勝手に国境線を引いてロシア人とウクライナ人を一緒にしてしまったことがある、

 北野

 これは、プーチンのロジックですね。かつてウクライナは、ロシア帝国の一部でした。1917年ロシア革命が起こり、1922年ソ連が誕生した。その時、ウクライナは、「ウクライナ社会主義共和国」として、ソ連邦の構成国になりました。

 1991年12月、ソ連崩壊。もともともロシア帝国の一部だったウクライナは、独立を達成し、現在にいたっています。

 プーチンのロジックは、「ウクライナはもともとロシア帝国の一部だった。だから元に戻すべきだ」です。

 これどうですか? 私は、「バカげたロジックだ」と思います。これが通用するなら、「北アメリカは、もともとネイティブアメリカンのものだった。後から入ってきた白人、黒人、アジア系は全部去って、ネイティブアメリカンにアメリカ合衆国を引き渡せ!」ということになります。

はっきりいって、「昔どうだったから」ということを、侵略の原因にするのは馬鹿げています。

 一番重要で、唯一重要なのは、ウクライナが1991年12月のソ連崩壊で独立を達成し、国際社会と新生ロシアがウクライナを国家承認したことだけです。

 「昔はこうだったから」といい始めたら、国際社会はぐちゃぐちゃになってしまうでしょう。

 
2、2015年にミンスク協定を結んだが、これはプーチンを騙すもので、

 北野

 2014年3月、ロシアはウクライナからクリミアを奪い、併合しました。2014年4月、ウクライナと、ウクライナからの独立を目指すルガンスク州、ドネツク州の「親ロシア派」による内戦が勃発。

 2015年2月、和平合意、いわゆる「ミンスク合意」が成立しました。合意によると、ウクライナ政府は、ルガンスク州、ドネツク州に幅広い自治権を認め、「特別な地位」を与えることになっていました。

 しかし、ウクライナは、この合意を守りませんでした。「プーチンを騙すため」かどうかはわかりませんが、事実として、ウクライナ政府は、合意を守りませんでした。


3、NATOの軍隊としてロシアと戦争できるようにウクライナに兵器を送り訓練を行い、

北野

 これは、ウクライナの立場にたってみる必要があるでしょう。2014年3月、ロシアはウクライナから、クリミアを「サクッ」と奪いました。

 ウクライナは、まったく抵抗することができなかった。
 ウクライナ政府は、「ロシアは他の領土もきっと奪いにくる。我々は強くなる必要がある!」と決意したことでしょう。

想像してみてください。ある日、中国が尖閣を奪いました。総理は、「真に遺憾で受け入れることができない!」と遺憾砲を発射するも、まったく効果なし。
 日本国民も政府も、「このままだったら、中国は沖縄本島を奪いにくる!」と思うでしょう。

 きっと日本は、米軍の協力を得て、自衛隊を強化し、中国の次の侵略に備えるでしょう。

 ウクライナが強くなろうと努力していたのは、ロシアがクリミアを奪ったからです。そして、覚えておきたいのは、プーチンは、「クリミアを奪う気は全然ない!」と宣言していたこと。

 @必見証拠(英語字幕つき)
https://www.youtube.com/watch?v=1__EPqhMrFQ

  

4、2019年にはウクライナ軍によって東ウクライナ在住ロシア系住民を16千人も大虐殺を行った、

 北野

 2019年ウクライナ軍がルガンスク州、ドネツク州でロシア系住民1万6000人を大虐殺したという情報、少なくとも私にはありません。

 しかし、2014年以降ウクライナ軍が、ルガンスク州、ドネツク州で、ロシア系住民をたくさん殺したのは事実のようです。

私の妻は、父親がウクライナ人、母親がロシア人という、「どちらとも話せる」立場にあります。それで、ルガンスク州、ドネツク州のことを調べてもらいました。すると、ルガンスク州、ドネツク州のロシア系住民は、かなりウクライナのことを恨んでいる。

2022年9月ロシアに併合されて喜んでいる人がたくさんいました。

 とはいえ、これも、「なぜ起きたのか?」日本国民は事情を知っておく必要があります。 

そもそもウクライナ軍が、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を殺したのは、【内戦が勃発した】ことが原因です。

 では、なぜウクライナと、ルガンスク、ドネツクの内戦が勃発したのでしょうか?これは、ルガンスクとドネツクの親ロシア派が、2014年4月に「独立を宣言したから」です。

 普通、ある自治体が、一方的に独立を宣言したら、内戦が勃発します。いい例が、ロシアからの独立を宣言したチェチェン共和国です。プーチンはチェチェン共和国の独立を許したのでしょうか?

 もちろん、許しませんでした。チェチェンにロシア軍を投入し、チェチェン人を殺しまくって屈服させたのです。 

では、ウクライナは、ルガンスク、ドネツクの独立を認めるべきだったのでしょうか?「プーチンがウクライナの大統領だったら、独立を認めず大虐殺を行う」でしょう。 

ですから、ウクライナ軍が、ルガンスク、ドネツク州のロシア系住民をたくさん殺した原因は、「ルガンスク州とドネツク州の親ロシア派が、独立を宣言し、内戦がはじまったから」なのです。

 問題は、ここからです。では、なぜルガンスク州、ドネツク州の親ロシア派は独立宣言したのでしょうか?

 これは、【 プーチンが命令したから 】です。

 イーゴリ・ギルキンという男がいます。ロシアの連邦保安庁(FSB)の元大佐。極右の彼は、ウクライナ戦争支持ですが、一向に勝てないロシア軍やプーチン自身を痛烈に批判していました。

 そのせいで逮捕され、現在刑務所にいます。そんなギルキンは2014年5月から8月まで、ウクライナからの独立を宣言した「ドネツク人民共和国」の国防相を務めていました。

 彼は、ロシア紙『ザヴトラ』(「明日」の意味)2014年1120日付で、こう語っています。

〈 私は戦争開始のトリガーを引きました。もし我々の分隊が国境を越えなければ、ハリコフ人民共和国またはオデッサのように最後は失敗していたでしょう。実際、現在まで続くこの戦争のはずみ車は私たちの部隊によって回されたのです。そして、私はそこで起こっていることに個人的な責任を負っているのです。〉

ーーー

 要するにギルキンは、FSBがウクライナ内戦を勃発させたことを認めている。別の言葉で、プーチンの意向でウクライナ内戦を起こしたことを認めている。

 ここ、まとめると以下のようになります。

 ・ウクライナ軍が、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民をたくさん殺したのは事実である。

 ・しかし、きっかけは、ルガンスク州、ドネツク州の親ロシア派が、独立宣言し、内戦が勃発したからである。

・内戦が勃発したのは、ルガンスク、ドネツクの親ロシア派が独立を宣言したからである。

・ルガンスク、ドネツクの親ロシア派が独立宣言したのは、プーチンの指示による。

・よってルガンスク、ドネツクのロシア系住民が殺されたのは、【 プーチンのせい 】である。

 

「ウクライナ軍は、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を殺した!」という事実だけ強調すると、「ウクライナひどい!」となります。しかし、そもそもの原因をつくったのは、プーチン自身なのです。

 

5、それによりプーチンはこのままだとウクライナはNATOに入るし、

北野

確かに、32か国の反ロシア軍事同盟NATOは、「大いなる脅威」に感じるでしょう。この点、ロシアの気持ちは理解できます。

 しかし、NATOがロシアの脅威というのは、実は勘違いです。

北朝鮮をみてください。2017年、核実験を行い、ミサイル実験を何度もして世界は大騒ぎになりました。「アメリカと北朝鮮は戦争になるのでは?」と誰もが恐れた。

 しかし、結局戦争は起きず、トランプは、金正恩と3回も会いました。北朝鮮の事例ではっきりしたのは、「アメリカは、核兵器を保有している国とは戦争しないのだな」ということです。

 ロシアの核弾頭保有数は2024年時点で5580発。アメリカの5044発より多く、世界一です。北朝鮮を攻撃できないアメリカが、5580発の核弾頭を持つロシアを攻撃できるはずがないのです。

 というわけで、「NATOはロシアの脅威だ」というのは、プーチンの勘違いです。
 

6、1200万人いるロシア系住民を見殺しにはできないので、ノボロシアを取り戻す必要がある、としてウクライナに攻め入ることになった、とのことです(宮川要約)。

 北野

 これについては理解できますが、既述のように、そもそもウクライナ軍がルガンスク、ドネツクのロシア系住民を殺し始めたのは、内戦勃発が原因。

 そして、内戦を起こしたのはプーチン自身なので、「プーチンの責任」といえます。

 そして、最後に、「善悪論の基準」について触れておきましょう。久能整君のいうように、「真実は人の数だけ」あります。それで、ロシアの立場にたってウクライナ侵攻を正当化しようとすれば、することができます。

 しかし、「善悪」には、基準があります。日本社会においては「法律」です。国際社会においては、「国際法」です。

国際法では、合法的な戦争は二つしかありません。一つは、「自衛戦争」です。ウクライナは、ロシアを先制攻撃していません。だから、ロシアのウクライナ侵攻は、「国際法違反の戦争」です。

一方、ウクライナの戦争は、自衛戦争で合法です。また、ハマスは2023年10月7日、イスラエルを攻撃し、1200人を虐殺しました。これに反撃したイスラエルの戦争は、合法です。(やりすぎて批判されていますが。)

 合法的な戦争、二つ目は「国連安保理が認めた戦争」です。たとえば、1990年の湾岸戦争は、合法です。しかし、2003年にはじまったアメリカのイラク戦争は国際法違反の戦争です。

 ロシアのウクライナ戦争は、もちろん国連安保理で承認されていません。だから、国際法違反の違法な侵略戦争です。

 以上、ウクライナ戦争の真実(上級者編)でした。

 (編者)ロシアの政界要人と、ウクライナ人とロシア人両方に人脈を持つ北野さんの論理は正しいと受け止めています。今回のウクライナ戦争がロシアの侵略戦争であることは間違いないでしょう。

そのプーチンを擁護するかのような言動を繰り返すトランプ大統領は間違えているようにおもいます。充分な情報を受け取っている筈の大統領がなぜなのでしょう。不可解です。

北野さんのメルマガを読まれることをお薦め致します。
一番ためになるのは、「パワーゲーム」の購読です。

北野幸伯(よしのり)Official Home Page
(ここからメルマガを申し込めます。無料)
https://rpejournal.com/

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2025年2月17日月曜日

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2025年2月6日木曜日

JA全中、ITシステムの開発に失敗し200億円の損失

 ダイアモンド・オンライン2月6日からです。

不良システムの維持費は、当初想定の2.8倍の年間20億円!
JAグループを束ねるJA全中が、ITシステムの開発に失敗し200億円の損失を出したことが、ダイヤモンド編集部の取材で分かった。JA全中は、システムを使う農協などに負担金の増額を求めており、強い反発を受けている。今回の失敗は、農協界を牛耳ってきたJA全中の機能不全の象徴といえ、役員の辞任や組織の改廃は避けられない情勢だ。特集『儲かる農業2025 日本の夜明け』の#5では、JA全中の失敗の本質を明らかにする。

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2025年1月30日木曜日

暗黒の30年の真因は、財務省の増税路線

 1月28日、森永卓郎教授が亡くなりました。

心より御冥福をお祈り申しあげます。
ありがとうございました。


昨日のメルマガにも書きましたが、森永教授は、
「暗黒の30年の真因は、財務省の増税路線」であることを暴露しました。



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2024年9月27日金曜日

ウクライナ軍の2つの大失敗

 北野幸伯<ルネサンス編集部>メルマガ <promo@renaissance-sk.jp>
2024.0927 より

私は、北野幸伯氏の論説が100%正しいかどうか判断する能力を
持ち合わせません。
ただ、私の今までの人生経験・知見のから判断すると、
物事の本質を捉えていて、ほぼ正しい、と思っています。

それは彼のモスクワエリート大学における勉学と
類稀な権力人脈との長い交友体験に根ざしていると思っています。

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たった1人でソ連を崩壊に追い込んだ男

アメリカ側の勝利で幕を閉じた、
米ソ冷戦。

実は、アメリカの勝利には
たった1人でソ連を崩壊まで追い込んだ、
ある男の謀略が大きく関わっていました…

その男は、レーガンでもなければ、
トルーマンでも、ケネディでもありません。

>その男の正体とは?

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

こんにちは、
ダイレクト出版・政経部門の磯村です。

ウクライナ侵攻から2年半が
経過しようとしています。

ウクライナは、8月下旬の時点で
東京23区2つ分の広さのロシア領を
支配しているそう。

今後、
戦況はどのように変化していくのでしょうか?

そこで本日は、
国際関係アナリストの北野幸伯先生に、
「ウクライナ軍の越境攻撃と【 兵站 】」
についてお話しいただきました。

=====

From:北野幸伯

★ウクライナ軍の越境攻撃と【 兵站 】

ダイレクト出版
ルネサンスメルマガ読者の皆様、こんにちは!
北野幸伯です。

久しぶりに、ウクライナ戦争の話です。

2022年2月24日に
プーチンがウクライナ戦争を始める前、
私は二つのことを書いていました。

一つは、
プーチンがウクライナ侵攻を決断する可能性がある。

もう一つは、
プーチンがウクライナ侵攻を決断すれば、
【ウクライナとの戦闘に勝っても負けても】、
ロシアの【 大戦略的敗北 】は【 不可避 】である。

たとえば、
ウクライナ侵攻開始8日前、
2022年2月16日付の『現代ビジネス』は、

『全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…!
キエフ制圧でも【 戦略的敗北は避けられない 】』
でした。

@全文はこちら↓
https://gendai.media/articles/-/92504

そして、実際そのとおりになりました。

プーチンはすでに、大戦略的には負けています。

なぜ?

いくつか例を挙げておきましょう。

〇ロシアは国際的に孤立した

2022年3月2日の国連総会で、
ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議案が
賛成多数で採択されました。

この決議案に賛成した国は141か国。

国連加盟国193か国のうち73%は、
はっきりと「ロシアは悪だ!」と非難したのです。

棄権または意思を示さずが、47か国。
これらの国々は、中立です。

この決議案に反対し、
「ロシアの味方であることを示した国」は、
どのくらいいたのでしょうか?

ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリアの4か国だけ。

日本には、
中立国家をちゃっかり「ロシア側」に入れて、
「孤立していない」と主張する人たちがいます。

しかし、実際
「俺たちはロシアの味方だ!」と手を挙げた国は、
4か国だけなのです。

日本にも、
「悪いのはアメリカとウクライナだ!ロシアの側につけ!」と
言う人もいます。

日本が、北朝鮮、シリア、ベラルーシと一緒に
ロシアの側につく??????

どれだけ変な主張なのか、
ご理解いただけるでしょう。

〇プーチンは、国際社会で【 戦争犯罪人容疑者 】

2023年3月、国際刑事裁判所(ICC)は、
プーチンに【 逮捕状 】を出しました。

容疑は、プーチンが、
「ウクライナから子供を大量に誘拐させていること」です。

これでプーチンは、
ICC加盟国世界124か国に行くと
逮捕されることになりました。

とはいえ、最近彼は、
ICC加盟国モンゴルを訪問して逮捕されませんでしたが。

しかし、
「国際社会でプーチンが、
オフィシャルに戦争犯罪人容疑者である」
ことに変わりはありません。

〇プーチンは、NATO拡大阻止に失敗した

プーチンがウクライナ侵攻を開始した理由の一つは、
「NATO拡大を阻止するため」でした。

ところが、彼の思惑に反して、
NATOは拡大しました。

それまで、
フィンランドとスウェーデンは中立で、
NATOに入る気が全然なかった。

ところが、ウクライナ侵攻で
「クレイジーなプーチンは、
いつイチャモンをつけて攻め込んでくるかわからない」
と恐怖した。

それで、
両国共にNATO加盟を決めたのです。

フィンランドは2023年4月、
スウェーデンは2024年3月に加盟しました。

プーチンは、
「NATO拡大を阻止するために」
ウクライナ侵攻を決断し、
逆にNATOを拡大させてしまったのです。

これは、
「わかりやすい戦略的敗北」の一つでしょう。

〇ロシアは、「旧ソ連圏の盟主」の地位を失った

ウクライナ戦争が始まる前、
ロシアは、なんやかんや言っても
「旧ソ連圏の盟主」でした。

ところが、ウクライナ侵攻後、
ほとんどの旧ソ連国がロシアから離れる選択をしています。

ウクライナ、モルドバ、ジョージアは
2022年2月、EU加盟申請を行いました。

アルメニアは2024年6月、
ロシアを中心とする軍事同盟CSTOからの
脱退を表明しました。

中央アジアの旧ソ連国
カザフスタン、ウズベキスタン、
トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスは、
ロシアを捨てて中国に走っています。

2023年5月、
中国と中央アジア5か国は、
「中国中央アジア運命共同体」を創ることで
合意しました。

こうしてロシアは、
「旧ソ連圏の盟主の地位」を喪失したのです。

〇ロシアは中国の属国に

ウクライナ侵攻前、
ロシアの最大顧客は欧州でした。

しかし、ウクライナ侵攻開始後、
欧州は、ロシア産の天然ガス、原油、石炭の輸入を
大幅に減少させました。

さらに、
ロシアの主要銀行はSWIFTから排除された。

別の言い方をすれば、
ロシアは、「ドル圏」「ユーロ圏」から
追放されたのです。

結果、ロシアは中国に、
天然ガス、原油、石炭を、
【 人民元 】で輸出せざるを得なくなりました。

中国は価格主導権を握り、
安値で買いたたくことも、
ロシアが亡びない程度の値段で買うことも、
自由にできるようになりました。

こうして、
かつてアメリカと世界を二分した
超大国ソ連の後継国家ロシアは、
中国の属国に墜ちたのです。

長くなるので、
この辺でやめておきましょう。

もっと詳細に知りたい方は、拙著

◆『プーチンはすでに、戦略的には負けている』



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▼ウクライナ軍の健闘と失敗

ウクライナが大国ロシアを相手に、
驚くほど健闘していることは、
誰もが知っています。

戦争初期、
首都キーウにむけて進軍してきた
ロシア軍の戦車部隊を、
ドローンやジャベリンで撃退した。

また、ウクライナ軍は、
ドローン、水上ドローンを使い、
ロシア黒海艦隊をクリミアから撤退させることに
成功しています。

『ニューズウィーク』4月15日付。

〈最近撮影された衛星写真によると、
ウクライナのドローンやミサイル、特殊部隊による
定期的な攻撃の圧力に押されてきたロシアの黒海艦隊は、
クリミア半島の主要な海軍基地をほとんど放棄した模様だ。〉

ーー

とはいえ、
ウクライナ軍もいくつか大失敗をしています。

一つは、
反転攻勢の時期を間違えたことです。

アメリカは、
2023年4月に開始するようアドバイスしていました。

しかし、ウクライナ軍は、
「欧米からの武器到着を待って、準備万端で」ということで、
「6月開始」にしたのです。

この二か月で、ロシア軍は、
地雷原をつくったり、塹壕を掘ったり、
戦車の移動を妨げる「ドラゴンの歯」などを設置した。

もう一つは、
反転攻勢のターゲットを分散しすぎたことです。

アメリカは、南に戦力のほとんどを集中させ、
ザポリージャを抜けてクリミアに入るよう
アドバイスしていました。

しかし、ウクライナ軍は、
東、南東、南の3つに軍を分けた。

結果、戦力が分散され、
一つも勝利することができなかったのです。

2023年秋になると、
アメリカ下院で過半数を占める共和党トランプ派によって、
アメリカはウクライナをほとんど支援できなくなりました。

その状態は、
2024年4月までつづいたのです。

この期間にロシア軍は優勢になり、CIAは
「アメリカが支援しなければ、
2024年末までにウクライナ軍は負ける」
と予測しました。

しかし、支援継続が決まったことで、
ウクライナ軍は生き延びることに成功した感じです。

そして、8月6日、
ウクライナ軍はロシア領クルスク州への
進軍を開始しました。

8月末時点で、
100の町村を支配下におさめることに成功したようです。

『AFP=時事』8月28日付。

『ウクライナ軍、ロシア領100町村制圧 約600人を捕虜に』
〈ウクライナ軍の
オレクサンドル・シルスキー(Oleksandr Syrsky)総司令官は、
ロシア西部クルスク(Kursk)州への越境攻撃により、
これまでに100町村、計1294平方キロを制圧したと発表した。〉

──

このことが、
「プーチンに大恥をかかせた」
「プーチンの権威を大いに傷つけた」ことは
間違いありません。

なんといってもプーチンは、
「超短期間で終わる」という意味で、
ウクライナ侵攻を「戦争」と呼ぶことを禁じ、
「特別軍事作戦」と呼ばせているのです。

「ウクライナなんか、ちょろい!」
という意味です。

ところがウクライナ特別軍事作戦は長引き、
すでに2年半が経過した。

ウクライナ軍はクルスク州を占拠し、
モスクワでもドローン攻撃がある。

これ、
「全部プーチンのせい」と言えるでしょう。

なんといっても、
彼が「ウクライナ侵攻」を決断し、
命令したのですから。

今起こっていることは、
全部彼の間違った決断の結果です。

ですが、もう少し現実的に見てみましょう。

ウクライナ軍が越境攻撃を始めた動機は、
いろいろあります。

その一つは、
「ウクライナ東部ドネツク州
(ロシアは2022年9月、一方的に併合を宣言した)の戦場から、
ロシア軍をクルスク州に向けさせたい」
というものです。

というのも、
ドネツク州で戦略的に重要な市ポクロフスクをめぐる戦闘で、
ウクライナ軍が劣勢である。

ウクライナ軍は、
ロシア領クルスク州に進軍することで、
ドネツク州のロシア軍の一部を
クルスク州にむかわせたい。

それによって、
現在の劣勢を挽回したいのです。

ところが、ロシア軍は、
クルスク州を見捨てることにした。

つまり、
「兵力は分散させない。クルスクは気にしない」と。

なぜ?

「ウクライナ軍の罠にははまらない」
ということでしょう。

日本では、ウクライナ軍がロシアに越境攻撃した件で、
だいたい二つの反応が見られます。

一つは、「平和ボケ」な反応。

「ウクライナがやっていることは、
ロシアへの侵略なのではないか?許されるのか?」

こういう人たちは、
「北朝鮮が日本にミサイルを撃ったら、撃ち落とすのはいい。
だが、北朝鮮のミサイル発射台を日本が破壊するのはだめだ!」
とかいうのでしょう。

もう一つは、
「ウクライナ軍すげえ!」「ロシアおわた!」
という反応。

気持ちはわかります。

しかし冷静に考えてみると、
そう楽観的にはなれません。

なぜでしょうか?

ウクライナ軍は現在、
東京23区2つ分の広さのロシア領を支配しているそうです。

ウクライナ軍は、
もっとロシアの深くまで進軍することはできるのでしょうか?

もっと広大な領土を制圧することはできるのでしょうか?

客観的にみると、難しいでしょう。

なぜでしょうか?

もしウクライナが、
もっとロシア領深くまで進軍したり、
もっと広い領土を支配しようとすれば、
それだけ人が必要になります。

クルスク州の人員を増やせば、
ドネツク州の兵士は減り、
ウクライナ軍はますます劣勢になるでしょう。

そして、もっと深く進軍すれば、
【 兵站の問題 】がでてきます。

かつて、フランスの英雄ナポレオンは、
ロシア帝国に戦いを挑むという
人生最大の失敗を犯しました。

老獪なロシア軍のクトゥーゾフ総司令官は、
ひたすら戦いを避け、
ナポレオン軍が飢えること、
凍えることを待ったのです。

60万人の大軍だったナポレオン軍は、
飢え、凍え、フランスに戻れたのは、
1%以下の5000人でした。

この大敗北が、
ナポレオン没落のきっかけになりました。

ヒトラーは1941年6月、
独ソ戦を開始しました。

彼は、
「5カ月でソ連を降伏させることができる」と
楽観視していたようです。

ドイツ軍はモスクワ近郊まで進軍しましたが、
10月になると雪が降り始め、
【 兵站の問題 】がでてきた。

結局、ヒトラーは、ソ連に敗北。

ヒトラーも、ナポレオン同様、
ロシア(ソ連)に敗北し、
没落していったのです。

ナポレオン、ヒトラーとの戦い。

ロシアでは「祖国戦争」「大祖国戦争」と呼ばれ、
重視されています。

ロシア人は、
「外国がロシアを攻めてきても、
広い国土、寒い冬が守ってくれる」と信じている。

実際、広大な領土のロシアに深く攻め込めば、
【 兵站の問題 】が発生し、
負ける可能性が高まります。

だから私は、
ウクライナ軍がロシア領に深入りしないことを
願っているのです。


◆長いPS

ちなみに、日本も、
ナポレオンやナチスドイツを笑えません。

一橋大学の吉田裕名誉教授は、
こう語ります。

〈「年次別の戦死者数を公表している
岩手県のデータなどから推計すると、
軍人・軍属の87.6%は1944年1月以降に
亡くなっていました。

問題はその死に方です。

戦争ですから、
多くの人は戦闘で命を落としたと考えるでしょう。

でも、日本軍は1944年以降、戦病死者が多く、
ある中国の連隊の史料では戦病死者が戦没者に
占める割合は73.5%にもなりました。

実際に全戦没者で見れば、
この数字より多い可能性が高いです。

その戦病死の中身も、
栄養失調による餓死、
あるいは栄養失調の果てに
マラリアに感染というケースが多い。

餓死の比率は61%や37%などの説があり、
確定はしていません。

ですが、
おおむね半数が餓死者だったと言っていいでしょう」〉

(『ヤフーニュース オリジナル特集』2022年7月31日付)

ーー

「おおむね半数が餓死者だった」(!)

日本軍がいかに【 兵站 】を
軽んじていたかわかるでしょう。

私たちは、先の敗戦の理由を知るためにも、
これから同じ過ちを繰り返さないためにも、
戦争の勝敗を決める大きな要因を理解するためにも、
【 兵站 】について知っておく必要があります。

「どうやって???」

元陸相の福山隆先生が、ずばり

◆『兵站』



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という本を出版されています。

これ一冊で超重要な兵站について、
ばっちり理解できるようになります。

是非ご一読ください。
かなりお勧めです。


PS

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◆『プーチンはすでに、戦略的には負けている 
~  戦術的勝利が戦略的敗北に変わるとき 』



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とても助かります。

なにとぞよろしくお願いいたします。

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<メルマガ著者紹介>

国際関係アナリスト
北野 幸伯

 
「卒業生の半分は外交官、半分はKGBに」
と言われたエリート大学:
ロシア外務省付属モスクワ国際関係大学を
日本人として初めて卒業。

その後、カルムイキヤ共和国の
大統領顧問に就任。

大国を動かす支配者層の目線から
世界の大局を読むことで、数々の予測を的中。

自身のメルマガは、ロシアに進出する
ほとんどの日系大手企業、金融機関、政府機関の
エリート層から支持されている。


北野 幸伯先生について、もっと知りたい方は、
こちらの紹介ビデオをご覧ください。

パワーゲーム・活動のビジョン
https://youtu.be/Us60-HunT9c

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2024年6月15日土曜日

腹式呼吸をやろう!

 3月から3ヶ月間、私が実証して、ステキな効果が現れました!

もちろん、個人差があるかも知れません。

しかし、無料です。試してみる価値はあるでしょう。

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お読み下さい。その要点だけ下にコピーを添付します。

ネットにもたくさん参考資料が載っています。

私は20年ほど前に中国の気功医師から教わったやり方と、塩谷先生のやり方の

混合になっています。

「体調がちょっと?」という人は試して見ましょう。

画像をクリックして、大きくして御覧ください。
「Esc」で戻ります。







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2024年2月27日火曜日

裏金問題・『政治不信の根源は制度の問題』

 

冷泉彰彦のプリンストン通信 2024.02.20

『政治不信の根源は制度の問題』

政治が混迷しています。冷泉彰彦さんが、問題点を浮き彫りにして、

かつ、解決案も提示してくれています。

これをたたき台にして、私たちも考え、何らかの行動に移しましょう。 

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安倍派の5人衆は起訴されず、このままですとキックバックへの追徴課税も行われるのか分かりません。また、旧統一教会の支援を受けていた盛山文科相も「お咎めなし」となるようです。どうやら、岸田政権は当面の解散を諦めたフシがあります。

 ・・・どういうことかというと、余りにも自民党への逆風が激しいので「解散したらみんなの議席が吹っ飛びますよ」ということを、党内の議員たちに脅迫するという構図です。・・・9月の総裁選も「内紛を起こしたら党の支持率は更に下がる」ので、何もしないで静かにしておく、だから「自分の続投でいいじゃないか」という線に持っていこうとしているのかもしれません。

 そこで、反対に解散しないのであれば、「民意は問わない」のだから、何をしても選挙には負けないということになります。・・・つまり不戦敗なら岸田の責任になるが、立てて負ければ候補者と党全体の責任ということです。

 そこで、選挙がない、補選は候補を立てて捨てるという「覚悟(?)」ができれば、民意を踏みにじってもどうでもいいということになります。裏金への追徴もしないし、盛山大臣は続投として、内閣支持率が下がっても何も怖くない「無敵内閣」というわけです。・・・この状態であれば岸田を辞めさせる理由はないという強弁も可能は可能です。

ですから、岸田としたら悪いのは自民党、特に安倍派と二階派だとして、自分は居直ることが可能になります。

 世論は完全にナメられているのです。これが、何でも反対の無責任な世論であれば岸田の居直りにも一部の理屈があるかもしれませんが、世論には様々な不満が渦巻いているのです。勿論、野党が「専業野党」になっていて、政策代案もなければ、統治能力もないという中で、岸田政権が延命してしまうという問題はあります。ですが、そもそも自民党に世論の声を聞く気がないというのが大問題です。

どうして、自民党の政治家は「キックバックによる裏金」にも、「宗教団体の怪しい支援」にも平然と居直っているのでしょうか。それは、彼らが人格破綻者だからではないと思います。そうではなくて、そこには1つものすごく巨大な「彼らなりの大義」があるからだと考えられます。

それは、特に小選挙区の場合がそうですが、「どう考えても統治能力も、政策代案もない野党政治家」に対して、与党の自分は「不利だ」という思いといいますか、怨念があるということです。怨念というのは、つまり自分のほうが正しいにもかかわらず、ドブ板選挙をしないといけない、そして何よりも選挙事務所の手が足りない、選挙区で票をまとめるには有力者、例えば県議、市議などの集票マシンにカネを撒く必要があるという「何かマイナスを背負っている」という意識です。

利益誘導を露骨にやれば逮捕される、かといって政策を訴えても反応はない、野党の方は何でも反対していると結構票が入るが、自分は本当にヘトヘトになるまで頭を下げてやっと当選だ、そんな思いです。当に怨念といって良いでしょう。

 とにかく、自由経済を守り、経済活力を守り、安全保障のバランスを守り、エネルギーを何とかバランスよく供給するということで、有権者の生活は成り立っているのは事実です。ですから自民党の候補は「そんな有権者の生活を守り、この国を守るのは自分であって野党ではない」という自負を持っているのだと思います。

 にもかかわらず、自分は本当に苦しい選挙戦を強いられて、特にそこではカネが必要になる、そのカネは政治資金規正法で締め上げられています。けれども、辛うじてパーティー券収入のキックバックがあるので、多少は柔軟に使えるカネがあるというわけです。

 そのカネにしても、本来は使いたくないはずです。県議、市議にカネを配る、冠婚葬祭がどうのこうの、あるいはイベントがあれば何か酒樽とかご祝儀とか、胡蝶蘭の鉢がどうとか、泥臭いカネの配り方、使い方をして初めて「選挙区から票を絞り出すことができる」・・・政治家の中でも政策に命をかけてきた人物にとっては、その全体が屈辱でしょう。好きでやっている人は少ないと思います。

 一方の野党は人気取りが上手で、メディアも味方するので「クリーンな選挙」ができることになります。けれども、自分は人に言えない泥臭いカネを動かして辛うじて勝ってきた、でも、実際に国のため、有権者のためになるのは自分であって、絶対に野党政治家ではない、そんな心理です。だったら、裏金について詫びるなどということはしたくないはずです。

 自民党政治家の多くが、裏金問題では「どんなに批判されても頭を下げない」のは、そのような心理があるからだと考えられます。まして、その裏金に税金をかけられたり、支払先を全部公開しろ等と言われたりというのは、絶対にできないし、したくもない、勿論、説明しても理解されないことは分かっているが、自分は絶対に認めたくない、そんな心理がありそうです。

 では、そんな困難に耐えている自民党議員は正しいのでしょうか。そんなことはありません。

 一つ言えるのは、有権者も悪いということです。小渕優子氏に観劇旅行をねだったり、安倍晋三氏に「アンタが総理で威張っているのなら、地元の支持者にもせめていい思いをさせろ」などと「桜を見る会」への格安参加をせびったり、そうした有権者は全部、収賄罪で逮捕すべきです。

 が、政治家としてはそれもできません。有権者は神様だということはあると思いますが、とにかく保守票田にはそのような問題があり、そうした票田に頼って初めて、自由経済や安全保障が維持できるのなら、仕方がないというようなことだと思います。

この認識と心理が、今回の事件の最大の問題です。仕方がないじゃないか、そうしないと選挙に勝てないのだから、そして統治能力があるのは自分たちだけなんだから、とにかく仕方がない、こうした心理が大問題だと思います。

 念のためにお断りしておきますが、野党系の論客が「結局は自民党政治がダメだったからGDPが世界4位に転落した」などと、今回のスキャンダルと自民党の統治を一緒にして批判するような例は多いようです。ですが、これも間違っています。西側同盟を冷笑し、したがって自由と民主主義を冷笑し、自由経済と経済成長を冷笑してきたのは野党であって、それを忘れて、自民党に下野しろと迫るのは無責任です。

その証拠に、自民党の支持率が21%とか10%台にまで落ちているのに、「野党には代替政権の構想もなければ、その代替政権の政策協定の交渉も始めていない」のです。これ以上の無責任があるのかということです。確かに裏金作りは犯罪ですし無責任です。宗教団体に首根っこをつかまれて、自分たちとの関係を自分たちでリークしながら復讐されている姿は悲惨であり、正視できません。

 ですが、21%しか自民党を支持しないというのは、世論の89%については「統治能力と正しい政策があれば野党に政権を任せても良い」という考えを持つ「かもしれない」可能性を示しているのです。その民意を完全に無視している野党の犯罪性というのは、盛山大臣や五人衆の犯罪性に比べて、遥かに遥かに悪質であり、究極の無責任であり有権者への裏切りと言っても過言ではありません。

 では、国民は腐敗した与党と、無能で無気力な専業野党の間で、ただただ国運が加速度的に傾くのを黙って見ているしかできないのでしょうか。政治改革と言っても、政治家が腐敗しているか無能である以上は、事態が改善する可能性はないのでしょうか。

 実は、この点に関しては制度で解決できる問題があるのです。それは、「幅広い有権者を巻き込んだ各党における党首予備選の実施」であり、もう一つは、「首班指名以外の党議拘束の廃止」です。

 直接民主制には反対ですが、この2つを実施すれば政治改革を前進させることは可能です。また、無能な与野党党首を取り替えることもできますし、何よりも自民党の派閥は本当に解消できます。旧岸田派の代表で上川氏にスイッチだとか、小池との連携だとか、怪しい密室人事ではもうダメです。

人事に勝ち上がった政治家が、総理として国民に対峙した途端にコミュ力のスキル欠落が暴露されて政権が崩壊するというような、バカバカしいムダもなくなります。

 一番のメリットは、政策で候補を選ぶことができますから、全ての選挙区における全ての選挙がガチンコの民意が反映する場に変わるのです。

 共産党の密室での党首選びもノーです。共産党だけでなく、左派政党一般が高齢者に偏った政策に偏るのも、予備選でノーが突きつけられますし、反対に有権者の政策要求の代表になり、そのような政策を掲げる政治家がいれば、その主張は広範な民意の洗礼を受けることができます。

 そこである政策を代表する候補が当選したら、その政策を国会で主張したら良いのです。自民党の政務調査会などの密室ではなく、また税調などの密室ではなく、国会で堂々とガチンコの政策論議をするのです。そして、選挙の公約に違反するような言動が出てきたら、次の選挙では現職でも予備選でクビにするのです。

 そのようなガチンコ政治が実現できたら、今度は大企業だけでなく、国民一人ひとりが「誰を自分の代表として国会に送るか」ということを真剣に考えるようになります。そうなれば、政治資金は小口の個人献金を集めることで、完全にクリーン化できます。

勿論、問題点はあります。アメリカにおけるトランプ派の拡大、民主党の党内対立など、政策がまとまりにくくなるとか、一種の衆愚政治に陥る危険はあります。ですが、その点では、有権者の平均値でも中央値でも日本の場合は、アメリカより民度は高いわけで、その高い民度を誇る有権者が「予備選」に責任をもって参加して、総理候補、各党党首、各議員候補を政策を中心に判断していくのであれば、日本の民主主義の再生は可能であると思います。

とにかく、派閥人事も、県議市議を使った集票工作も、無難な人物しか党首に選べない穏健野党とか、反対に党首公選を主張したら追放するなどという非常識な野党も、全て丸ごと過去にしなくてはなりません。

 とにかく、諸悪の根源は、党首と候補の密室人事、そして党議拘束にあります。この2つを続けている限りは、100%の民主主義にはなりません。そして、裏金の問題も、派閥の問題も、何よりも社会の閉塞感も全てがこの問題に関係していると思います。

日本の政治は制度で改善できるのです。政治風土が悪いとか、有権者が低レベルだというのではないのです。(収賄体質の有権者は断罪されるべきですが)そこを突破することで、時代を先へ進める時期が来ている、今回の事態はそのように考えないと、解決しないと思うのです。

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