2020年8月22日土曜日

「夏の木陰」:バンクーバーにて

安江が、バンクーバーで、この「夏の木陰」の作者である小林徹さんに初めてお会いしたのは1997年1月27日でした。私が発起人で作った長野県輸入住宅協会の視察旅行でした。小林さんは日本建築を愛する文化人です。日本建築の良さをカナダに広めた功労者だと思います。
そんな小林さんと折に触れて思いの丈を交換してきました。

「シアトル酋長の手紙」、「穏やかな道」、「泣いた赤鬼」、「捨て子の少女の死」、などなどでした。私もバンクーバー島を案内していただきましたが、有名なブッチャートガーデンがあり、とても美しかったことを覚えています。小林さんのような教養を持ちたいと願いつつ、掲載させていただきます。
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夏の木陰

2020730日 小林徹様(バンクーバー、カナダ)より

四国で生まれ、子供時代を西宮港の側で過ごした関係上、身近に、瀬戸内海がありました。
移住してカナダに住んでも、バンクーバーから離れないのは、海を側に感じられるからでしょうね。
内陸だと、ちょっと落ち着かない。

夏が来る度に、泳ぎ慣れた瀬戸内海の海の暖かさを思い出します。
それに、白い砂浜と松林の木陰。
海に浮かぶ島々のシルエット。

飛鳥時代、奈良の都と中国大陸を結ぶ海路では、瀬戸内海は実に大きな役割を果たしたのですが、
その白砂青松の風光明媚さは、行き交う人々に強く印象に残ったに相違なく、
たとへば、時の権力者であった蘇我馬子などは、自分の邸宅の庭に、その景色を模して作庭し、 
それが評判になって、「島の大臣(おとど)」 と呼ばれていたとか。

ちなみに、この時代、庭のことをシマと呼んでいたらしく、
その一例は、大伴旅人の歌で、万葉集にありますね。

妹として  ふたり作りし  わがしまは  小高くしげく  なりにけるかも

かって、妻と二人で作った我が家の庭は、木が高く生い茂るようになってしまったよ、という感慨ですが、
旅人の奥さんは、もう、とっくの昔に亡くなっているのかも知れませんね。
二人で植えた木も、あんなに高く茂ってしまったよ、
あれから、ずいぶん、時がたってしまったんだなぁ、
今、自分一人では、張り合いも無く、手入れする気も起こらないよって、感じかな。
元気に庭仕事をしていた頃の奥さんのことを、懐かしく思い出して詠んでいるのでしょうね。

旅人の歌はともかく、シマが庭なら、蘇我馬子の 「島の大臣(おとど)」 とは、自宅に素晴らしい庭園のある
 「庭の大臣(おとど)」 という意味だったのでしょう。
つまるところ、日本庭園の原型は、瀬戸内海にあったようですね。

庭が島だった話は、さておき、バンクーバーで島と云えば、バンクーバー島。
面積でいえば、九州くらいの島ですが、この島と本土との間のジョージア海峡は、
島々の点在が見られて、カナダの瀬戸内海という感じですね。
でも、水は冷たいし、気候も少し違う。

このバンクーバー島の、そのまた西端、太平洋側に、フローレスという小さな島があります。
ハミングバードと、白頭鷲の島。

かって日本が、経済と引き換えに、惜し気も無く捨て去ってきたものが、
温存されている島です。

その島に住む友人から、メールがきました。

夜、石を投げ込んだ海面に、
ノクチルカの光の波紋が広がるのがうれしくて、
私は石を投げ続けていた、と。

ノクチルカとは、夜光虫のことです。
彼の心には、何が浮かんでいたのでしょうね。
夏の夜の海は、ともすれば、人を感傷に誘い、詩人にします。

いっぽう、拙宅の夏の夜は、食い気一杯、バーベキューの庭です。
日本に比べ、蒸し暑くなく、爽やかで、蚊などもあまりいないので、快適なわけです。
その上、9時過ぎまで明るいのですから、戸外での食事に最適。
バンクーバーの夏は、ほんとうに素晴らしい。
たとえ昼間、日射しがきつくても、木陰に入ると涼しいのです。
だから、皆、夏が待ち遠しい。

今年も、そんな夏が来て、拙宅の庭に、また桔梗が咲きました。
桔梗は、アジサイと同じく、日本原産だそうですね。

万葉集にある山上憶良が詠んだ歌、

秋の野に  咲きたる花を  指を折り  かき数ふれば  七種(ななくさ)の花
萩の花  尾花葛花  瞿麦(なでしこ)の花  姫部志(をみなえし)  また藤袴  朝貌の花

この朝貌の花が、桔梗だろうということで、日本では「秋の七草」の一つにされてしまったようですが、
カナダでは、秋というより、まさに夏たけなわの花です。
桔梗の花言葉の一つに「気品」というのがありますが、スラリと立つ姿に、その雰囲気が感じられます。
そんな桔梗が、毎年、この時期に咲いてくれる、その当たり前なのがうれしくて詠んだ歌。

今年また  青紫の  桔梗咲く  庭の木陰の  木漏れ日の中

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