2011年8月28日日曜日

世話人の”まちづくり”奮闘記

三矢の“まちづくり”こと語り――
    オレゴンから始まったロマンのドキュメント

 プロローグ

 この物語は,1984年,わたくし安江高亮(ヤスエタカスケ)の米国オレゴン州オレゴンシティの訪問に始まりました。
 
 ここに出てくるジョンという人物は,私の息子大輔がオレゴンシティ高校に留学した際,1年間泊めて世話をしてくれたヒゲの中学校教師です。
 奥さんのジャンは公認会計士で事務所を持っています。デイブはその長男,マットは次男です。


 オレゴンシティ郊外の閑静な住宅地で,日曜の朝,ジョンが号令します。

「デイブ,マット,ダイ(大輔),今日はプールのデッキの張替えをやるぞ。手伝ってくれ!」

 朝食がすむと,ホームセンターに材料を買いに行きます。ホームセンターは家族連れで賑わっていました。

 デッキまで入れて,縦8m横5mほどの小さなプールです。厚板がすっかり変色して黒ずんで傷んでいましたが,夕方には,デッキと手すりが,真新しい白木に変わりました。

 彼らは,ペンキの塗替え,ベランダやプールの修理,芝刈,庭の手入れ等を,休日に子供達と一緒に楽しみながらやります。

ジョンの家:奥に大型キャンピングカーが見える。2台分のガレージの前に日本車がある。晩秋の風景。

ジョンは,10年ほど前に,新しい家(中古)を7万ドルで買いました。約200坪程の土地に,4ベッドルーム,キッチン,広いダイニング,広いリビング,2台分建てつけガレージ,広い前庭,広い裏庭には小さいけれどもプールのある家でした。ポートランド国際空港から車で約20分ほどの距離です。「この家は何年経っているの?」と聞いたら,「知らない」という。「機能が全部ちゃんとしているから関係ない」というのが返事でした。   

わたしは美しい街並みにあるジョンの家で,こんな光景を見ながら,“まちづくり”に想いを馳せました。

わたしはオレゴンの強烈なショックを起爆剤にして,カナダ,イタリア,イギリス,フランス,ドイツ,ベルギー,デンマーク,スウェーデン,ノルウェー,等々世界の“まちづくり”を見て歩きました。ここでは,オレゴンでも体験を主に“こと語り”ます。

 

  オレゴンで,強烈なカルチャーショック!

どうしてこんなにキレイなの! どうしてこんなに日本と違うのでしょう!

 

立科町のオレゴンシティ訪問団の一員となって,はじめてオレゴンを訪問したある日の自由時間。わたしはホストファミリーの自転車を借り,カメラを持って周辺住宅地の探索に出かけました。今想えば,これがことの始まりでした。

 ホストのジョンがポートランド空港からオレゴンシティまで載せてくれた道々,沿道の芝生をはじめとする環境整備の美しさに見とれていました。

 自由時間に,自転車で住宅地の中を走るにつれ,通りの角を曲るたびにその驚きを深めていきました。日本では見たことのない美しい街並み景観がどんどんと続いていました。そして景観への感嘆と同時に,日本との違いに対する疑問で頭がいっぱいになりました。この驚きと疑問が私を“まちづくり”に突き動かしました。

 

  街並みの良さに,わたしはディベロッパーと住民の意志を感じました。

 


 統一感のある家並みと景観,整備されている前庭には明らかに一つの意志が働いていると感じました。でなければ,あんなにキレイにできる筈がないと。

 ディベロッパーは開発に当って,どんな人々がどんな生活をするのかを想定し,どんな街にするのかコンセプトを定めます。そこから“まちづくり”の全てが出発します。想定したライフスタイルに基づき,価格・街並みとコミュニティのメンテナンス等ルールが作られます。日本ではほとんどがそうなっていないように思います。

ジョンの住んでいるコミュニティでは,芝生を伸ばしっ放しにしてあると罰金があるようです。 長野県で活躍しているフランス人ジャーナリスト,シルビー・ジャコさんが,「日本の街はきれいじゃない。それはきれいにするためのルールがないからです。ルールがあるのが世界の常識です」とセミナーで語っていたのを思いだしました。


 
どうしてこんなに安いんだろう!

 タウンハウス(分譲集合住宅)

昭和60年当時,アメリカの家の価格は平均的にみて日本の半値でした。土地が安いのは理解できますが,家がどうして安いのか,そこに大きな興味を持ちました。

 だんだん判ってきたことですが,家の建築について,設計から施工・検査,融資等について,極めて合理的な仕組みができ上がっています。またツーバイフォー工法(北米の標準的建築工法)というのは,やる気さえあれば,素人でも造れる工法です。ご興味のある方は次ぎのホームページをご覧下さい。

http://www.2x4assoc.or.jp/

 

過去に,国を挙げての住宅建築合理化の運動がなされていたのです。その上,彼らは質より機能を大事にします。ですからよく見ると,日本人には我慢できないほど粗造りなところがあります。しかし,結果においては,安くでき,機能がよく,素人でもメンテナンスでき,平均して50~80年使われる家になります。大工を養成する仕組みもあり,ジョンの息子はその制度を使いカーペンターになりました。


写真のタウンハウス(分譲集合住宅)は,戸建の居住性を持ちながら,集合であるために戸建より安くなりますので,ファーストバイヤー(家を始めて買う人)に好まれます。集合住宅だからといって安物ということではありません。中古であれば,5万ドル位から買えます。とても合理的な考え方です。誤解されるを困りますが,決して日本の在来工法が悪いと言っている訳ではありません。家を造る考え方と仕組みのことを言っております。

更に,家は社会的資産であるという考え方と,流通性を考えて,汎用性のある設計になっています。ですから,上のグラフにあるようにアメリカの中古住宅市場は新築市場の約3倍あります。日本はその逆で中古住宅市場は新築の10分の1です。様々な種類・分類による設計図集が完備されていて、そこから選ぶのです。日本人が車を選ぶのに同じような感覚で住宅を選ぶのです。設計士を頼む必要がないのです。日本人は家に取り憑いて個性を出しますから流通しにくいのです。繰り返しますが、家は生活を楽しむ場であり、所有することが人生の目的ではないのです。同時に重要な換金資産なのです。なので、価値を下げないように、家族全員で家をメンテナンスし環境整備をするのです。価値=価格が下がらないようにです。古い家をリーズナブルな価格で流通させ長く使っている分だけ,彼等の生活内容が豊になっていることは間違いありません。基本的に欧米の住宅は価格が下がらないのです。後段でそれを証明するデータを掲載します。


 
家を,売り買いするのが楽しいの!?

 住宅街を歩いている,“Open”とか“For Sale”という看板がたまにあります。自分の家を売出しているのです。家の中に入れてもらうと,初老の夫婦がニコニコしながら自分の家のことを説明してくれました。古い家具の由来を自慢げに話す。自分たちのそれまでの家に対する思い入れを語る。日本で家を手放す時のような悲壮感のようなものはまるでない。楽しんでいるようだった。いったいこれはどういうことだ!? 住まいに対する価値観とライフスタイルが全く違うことに驚かされました。

下の写真は,住宅街でよく見かけるガレージセール。ライフスタイルの転換時や引越しの前に家裁道具を処分する。楽しんでやっている。

 

  家は,いったい誰のもの? 何故5~7回も家を変えるの?


家に対する価値観が根本的に違います。彼らにとって家は,完全に自分のものではないのです。基本的には社会的資産として捉えています。家のインテリアはプライバシーだが、外観とエクステリアはパブリックという考え方のようです。彼らは,家を所有するのが目的ではなくて,生活を楽しむために家を使っているのだと思います。

しかし,家は人間が生活のために使う最も高価なものです。一生の間には,独身,結婚,子育て,転職,小離れ,退職,余生とライフステージはどんどん変わります。彼らはそのライフステージに合わせて家を変えていきます。平均して6回位家を変えるといいます。従って,合理的な中古住宅流通市場ができ上がっており,リーズナブルな価格で家が気軽に売買されます。言いかえるなら,住宅を社会でシェア(共有)していると言えるのではないでしょうか。

売る時には少しで良い値にしたいのは当然です。従って価値が下がらないように努力します。家そのもののメンテナンスはもちろん,環境整備をしっかりやり,自分の家と地域の価値を下げないために懸命に管理します。大事なことは,地域の価値を下げると,自分の家の価値も下がってしまうという価値観です。なので、買った時の値段と次のために売る時の値段に大きな差がありません。

  これは私の想像ですが,いろんなデータから判断するに,アメリカ人と日本人の一生の間に住宅にかける費用は,倍以上の差があるような気がします。その分が生活を豊かにし,キャンピングカーになったり,フィッシングボートになったり,家族の長期バカンスになっているのだと思います。

 

  住宅ローンの驚き!! 家を手放せばチャラ!?

 日本では,住宅ローンが払えなくなって家が競売されても残りの借金があれば,どこまでも金融機関の取立てが追いかけてきますので,最後は破産するか命で償い(生命保険)をするかしかなくなります。現在はどうか知りませんが、ローン契約する時に生命保険契約がセットでした。返せなかったらどうするのでしょうか。日本の自殺者が多いのと関連があるのでしょうか。

 平成10年1月4日の日経に「個人の自己破産最悪」という記事がでました。その内容は,「ローン返済に行き詰まる中高年のケースが目立つ。バブル期に購入したマンションなどの価格が大幅に下落し,物件を売却してもローンを返済できない事例が多い」というものでした。

 平成2年に1万1千件だった自己破産が,平成16年には24万件になりましたが,その中にかなり住宅ローン破産があると言われています。

こうなるのは,担保割れを起こすからです。そこで金融機関は絶対にとれる方法をとっています。

住宅ローンの条件として,家だけを担保にした「抵当金融」(ノンリコースローン)でなく,建てる人に貸す「債権金融」にした訳です。「債権金融」は,その人に貸しているわけですから,家を手放してもどこまでも追いかけて行きます。専門家によると,世界の住宅金融は「抵当金融」だそうです。

抵当金融は家しか担保に取りませんから,返金ができなくなった最悪の場合は,家を手放せばそれでチャラになるわけです。ですから破産する必要はない訳です。

〔参考〕ノン.リコースローンとは  ㈱日本システム評価研究所ホームページより
最近の不動産証券化の進展で今まで国内では存在しなかったノン.リコースローンが注目されてきた。リコースローンとノン.リコースローン(NRF)の定義は下記になる。

・リコースローンのリコースとは、「遡及される」という意味で不動産担保融資で担保物件を売却しても債権額に満たない場合、担保物件以外からも返済義務が生じ、このような遡及権を持つローンをリコースローンとよび従来から日本国内で採用されてきた融資制度

・ノン.リコースローンは、融資に伴う求償権(right of indemnity)の範囲を物的担保に限定するため担保物件以外は遡及されないローンで、担保物件を売却して債権額に満たない場合でも、それに対する一切の債務から免責される。

 

  長期バカンスは,年2回!


本当に羨ましい話です。私の息子が1年間お世話になったジョン一家は,夏は親戚のいるハワイへ,そして春か秋はカナダかメキシコの方へ大型キャンピングカーでドライブにといった感じです。本人は学校の先生,奥さんは公認会計士事務所を経営していました。このライフスタイルを支えているのは,合理的なアメリカの住宅文化だと思います。日本では,中小企業の社長家族でもなかなかここまでできません。写真は,たまたまスケジュールが一致して,自家用車でバカンスに来ていたジョン夫妻に,カナダのバンフで会った時のものです。夏でした。後ろに見えるのはカナディアン・ロッキーです。


 
夢のようなシニアタウンが,すばらしい! 


 リタイアメント・コミュニティとかアダルト・コミュニティとか呼ばれるシニアタウンがアメリカにはたくさんあります。その代表的な一つ「サンシティ」に行って見ました。いずれも民営です。

 左の写真は、中央管理棟です。

 約人口1万人の町です。しっかりした開発・販売コンセプトがあります。夫婦のどちらかが55歳以上でないと買うことができません。自分の子供でも3ヶ月以上滞在できません。
 右の写真は全体模型です。緑の部分は18ホールのゴルフ場です。
ゴルフ場を囲んで,美しい街並みの住宅街があり,管理棟にはレストランをはじめ,あらゆる運動・娯楽施設が整備され,株・商品のディーリング・ルームまであります。

 驚いたのは住宅の値段と年間管理費,ゴルフプレー費等の安さです。住宅(土地込)は1500万円から買えます。ご興味のある方は下記URLをご覧下さい。「あなたの家を捜す」から州を選ぶと全米のサンシティの施設を覗くことができます。

デル・ウェブという会社の経営です。町の運営はボランティアで行われており,自治権は住民投票で決まります。

http://www.delwebb.com/


 
以上の結果、日米の住宅資産の結果は下図のようになっています。

 グラフの中に説明がある通りです。田舎でよくある話ですが、築30~40年ほどの家を売りたいと不動産屋に査定してもらうと、「家を壊してもらえば土地だけなら売れる」と言われたという現実があります。仮に家が売れても、本当に二束三文になってしまいます。一生かけてローンを払った家がゼロになてしまうのです。欧米では基本的に家の価格は下がらないといいます。これでは豊かになれません。

 日本のグラフから、約500兆円の評価損を背負っていることが解ります。人口1億2千万人で割ると、一人当り約400万円の損失を背負っていることになります。

 こうなってしまう原因は”まちづくり”ができていないからです。自分の好きなように、形も色も材料もエクステリアも造ってしまうので、街並の景観はバラバラになってしまいます。ステキな街にはなれない。住んでみたいと思われるような街にはならないからです。

 私は欧米の大小の市街地や田舎の集落を見て廻りましたが、ステキな街がいっぱいありました。夏目漱石が指摘した「上滑りの文明開化」の結果でしょう。”まちづくり”は国土交通省の管轄ですが、高級官僚の皆さんは皆公費で欧米の一流大学に留学していますので、よく欧米の街の美しさをご存知の筈ですが、なぜ、未だに”まちづくり条例”の制定ができないのでしょうか?

 エピソードがあります。2003年のことでした。NPO法人信州まちづくり研究会を立ち上げた3年後、佐久市の研修センター大ホールで信濃毎日新聞の特例記者だったフランス人女性を講師に招き「シルヴィーが見た信州の暮らしと心」と題して講演会を開催しました。その開口一番発せられた言葉が次の通りです。

「信州の自然はすばらしいです。しかし、町並みはどこも美しくないです。そして、どの街にも”まちづくり条例”がありません。だから美しくならない。これは世界の非常識です」

 私は承知していましたが、ここまでハッキリ言われるとは思っていませんでした。欧米人の目から見るとその通りなのでしょう。もちろん、欧米の価値観に無条件に同調する必要はありません。しかし、美しいものとそうでないものの判断は世界共通だと思っています。美景と美人は世界共通だと思います。

 この悲しい現実を変えたくて、私はNPO法人信州まちづくり研究会を設立いたしました。

 三矢は、次項のコンセプトによる開発・販売に挑戦しました。


 
「まちづくり」企画・開発・販売,奮闘の歩み

 開発コンセプト

  開発計画は「ニューヴィレッジプラン」と名付けられ,

  そのコンセプトは,“新しい暮らしの提案”でした。内容は次ぎのようなものです。

A:景観の美しい街並み・・・個性的で且つ統一感のある住宅。並木と緑地の形成。

B:オープンな街並み・・・ 全面に,塀・垣根を作らない。

C:車社会を前提とした・・・利便性も大切ですが,自然環境を重視。

D:機能性・快適性の高い住宅・・・機密度を高め,換気に配慮し,床暖等を取り入れ。

E:文化の香りのする街・・・オシャレで統一感のある街並みは,ガーデニングとイルミ       ネーションがにあう。

F:景観形成住民協定・・・A~Eまでのコンセプトを維持するためにルールを作る。

G:特別自治会・・・・・・景観形成住民協定を守り,コミュニティを形成します。

 平成2年から,6箇所・138区画開発

  平成4年 フォレストヒルズ牟礼34戸 北信五岳が見え,リンゴと雑木林の丘の上。

平成7年 フォレストヒルズ平井24戸 浅間連峰を一望する緩やかな丘。

平成8年 リードリーくらかけ33戸 
      八ヶ岳連峰から北アルプスまで一望する太陽一杯の丘。

平成8年 フォレストヒルズ駒場8戸 
      80年の歴史を誇る北海道のような長野牧場のとなり。

平成8年 フォレストヒルズ軽井沢15戸 
      追分宿の近く,軽井沢らしい自然環境豊な閑静な地。

平成10年 フォレストヒルズ古里22戸 
      信濃国分寺の近く緑豊な河岸段丘に面した
利便の地。

下記URLから6箇所の概要を見ることができます。
 http://www.mitsuyakogyo.co.jp/machi/section.html
 

平成4年に「フォレストヒルズ牟礼」を売出した時には,日本経済新聞,日経ビジネス,信濃毎日新聞,新建新聞,いくつかの週間誌等が記事にしてくださいました。

以上

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